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ペン習字の師匠から学んだ事を心の中に大切にして…

今年の3月、私が43年間師事してきました、ペン習字の師匠、小川江南先生が90歳で亡くなられました。

小川江南先生は、私達の母会である、《日本ペン習字研究会》の〈常任総務理事〉をお務めになり、倉敷硬筆教育協会・会長として65年間にわたり、ペン習字の指導者としてご活躍され、現役でこの世を去りました。

私は江南先生の65年間の中、43年間、ご指導いただき、本当に沢山の事を教えていただきました。

今回のブログでは、そんな偉大な師・小川江南先生を偲び、ペン習字を通しての江南先生との思い出や、江南先生から教えられ、大切にしていきたい思いなどをお伝えしてみたいと思います。

〇ペン習字の学習を生活やビジネスに生かして‥

江南先生はペン習字では誰もが読みやすく、きれいに書くこと、また、「ペン習字で学んだ事を生活やビジネスに生かす!」ことをとても大切にしてこられました。
ハガキや封筒では文字をきれいに書くことより、むしろ、文字の大きさや配置など、レイアウト良く書くことを、また、手紙やビジネス文書では書式の決まりなどもご指導くださいました。
横書きや英文の課題などもあり、何気なく練習していましたが、文科省後援硬筆書写技能検定を受験するようになって、そのどれもが受験に繋がる内容でとても役立ちました。
のし袋の練習も、筆ペンで表書きをきれいに書くだけではなく、中包みの書き方やお金の入れ方まで細かなこともご指導いただき、その後の生活の中で大いに役立てることができました。

このように、江南先生は生活で、ビジネスで使えるペン習字!、書道とは違うペン習字の独自性をとことんアピールされ、胸を張ってペン習字だけで書道に負けない教室運営の確立に、発展に生涯を懸けてこられました。

◆「大人がペン習字を学ぶメリットとは」へはこちら

◆「ペン習字」と「書道」って何が違うの?へはこちら

〇ペン習字の作品を格調高い作品へと研究されて‥

どんなジャンルにおいても上達には発表の場は不可欠です。
ペン習字教室でも年に2回作品展がありました。ペン習字は生活に役立てる事は出来ても、作品‥となると、線も細く、字も小さく、作品にはならない‥と、先生はよく話されていました。
それでも、少しでも作品効果が高まるように、さまざまな事を研究し、私達にもご指導くださいました。

紙の染色や箔を施して雅味のある紙を自ら作って‥

書道の作品用の和紙は書道用品店に多く並んでいます。が、私達が日ごろ使っている〈つけペン〉で書ける洋紙で作品展に使える趣のある紙はなかなかありません。
白い上質紙に小さな文字を並べただけの作品から、アクリル絵の具や水彩絵の具で色を染めた紙に書いた作品は、華やかで趣のある作品となりました。
絵の具に墨汁を混ぜて、色に渋みや深みを出すこと、刷毛ムラ無く染めることや、何色かで色のグラデーションを出すことなどを考えられ、私達にも何度も講習会を開き、教えてくださいました。
また、その染めた紙に金箔の切石、砂子、野毛などを施す事も研究され、かな作品にも使える、風雅で、格調高い紙作りなども教えてくださいました。

作品に伊勢型紙の技法を取り入れて‥

江南先生はある時、東京の店先で伊勢型紙に出会い、「これはペン習字の作品に使えるな‥」と、思ったそうです。
早速、三重県の伝統工芸師様の元で、先生自ら、伊勢型紙を習いに通われ、私達にも教えてくださいました。
紙を染めて、ベースに色のある趣のある紙の上に、更に型紙を使い、花一輪など、ちょっとしたデザインが型染めされるだけで一層、作品は華やぎます。

このように江南先生は、線も細く、字も小さくて作品となりにくいペン習字の作品を色々な方法でより見映えの良い作品に仕上がるよう、様々な研究をされ、私達にも惜しみなく教えてくださいました。

作品の表装を先生ご自身でしてくださいました。

さまざまな工夫を凝らし、紙作りから、何度も練習し、作品を書き上げました。
それをどのように装いするかも、作品として完成させるのに大切なポイントです。
江南先生は多くの生徒達の作品を、一点一点愛情込めて、表装してくださいました。
和額から、軸装、巻子、衝立て‥など、実に様々な表装で立派な作品に仕上げてくださいました。
私自身は余り、様々な表装をしていただけるような作品は書けませんでしたが、先輩方の格調高く装いされたバラエティーにとんだ作品が会場いっぱいに展示された華やかな作品展の様子は今も心に残っています。

〇手作りの楽しさを教えてくれた江南先生

江南先生は何事にも好奇心旺盛で、探究心も強く、そしてとても器用で、物作りのお好きな先生でした。
一冊の本もバラバラにして製本の技術をマスターしてしまう、そんな先生でした。
〈手作り講習会〉をよく企画してくださり、源氏物語の絵巻物、百人一首かるた、二曲屛風、折り帖、和綴じ本、雅印入れ、貝合せ、パネル貼り、など‥‥沢山の作品を手作りする楽しさを味わうことが出来ました。

先生はどこでこのような技術を身につけられたのだろう‥と、不思議に思います。
が、江南先生も私も若い頃、江南先生が企画してくださった色々な〈手作り講習会〉に参加して、物を手作りすることの楽しさを味わい、出来上がったそれぞれの作品は江南先生との思い出と共に私にとっては、かけがえのない宝物になりました。

〇多くの指導者を育てられて‥

江南先生の全盛期は90名にのぼる指導者で、4000名の生徒さんのいる巨大組織でした。昔の高度成長期に特に女性が自立し、学びを求める、そんな時代背景もあったのかも知れません。
しかしながらも、江南先生率いる、〈倉敷硬筆教育協会〉は、母会《日本ペン習字研究会》の中でも突出した巨大した支部でした。
江南先生は多くの指導者を育てられました。
江南先生は、「誰でも指導者になれるんだよ。高い技術や知識が要るのではなく‥‥、常に学ぶ姿勢が大切。教えるんじゃ無いんだよ。教える事で自分の勉強が出来るんだ。学びつつ教えれば良い」
そう、仰って〈指導者育成セミナー〉を開催してくださり、多くの生徒達を指導者へと導き、教室開設の手助けをしてくださいました。でも、「学ぶことを怠ったら指導者としては失格だよ!」との厳しさもありました。
字が下手でコンプレックスから始めたこんな私をも指導者に育ててくださいました。今こうしてペン習字が続けられているのも江南先生に巡り会えたお陰様だな‥と江南先生が亡くなり、しみじみと感謝の気持ちが湧いています。

〇まとめ

43年間師事してきた小川江南先生は、素晴らしい先生でした。
先生からはペン習字をご指導いただきました。そして、ペン習字を通して、生き方も教えていただいたように思います。
江南先生は、「志を持とう!」とよく話されました。長期的ビジョンを持ち、目の前にも何か目標を掲げ、コツコツと努力し続けることの大切さもよく話されました。何かを始めたら投出さず辛抱する、辛抱の棒を持て!と励ましてくださいました。
江南先生は生前、9冊の自費出版の本を出版されました。最期の自費出版の本となりました《江南語録》には、こうした、私達の心にしみじみと沁みわたり、励まされたり、元気を貰えたり~と先生らしい言葉が沢山紡ぎ出されています。
これからも《江南語録》を心の指針に、江南先生が大切にしてこられましたスピリッツを心に刻み、ここ地元において、ペン習字の普及発展に尽くし、ペン習字を通して繋がるご縁に感謝し、ペン習字が皆様から愛されていくように、頑張っていきたいと思います。